事業譲渡や企業買収は介護事業の新規開業・経営規模拡大の早道

事業譲渡・株式譲渡とは

できあがっている事業を手に入れる方法には、企業合併や株式交換などがあるものの、介護事業でよく見られるのは事業譲渡と株式譲渡です。

  • 事業譲渡=譲渡元の会社から特定の事業だけを譲り受ける
  • 株式譲渡=会社全体を譲り受ける

また、M&Aは企業買収全般について使われる言葉で、事業譲渡・株式譲渡もその手法のうちの一部です。

事業譲渡・株式譲渡それぞれにメリット・デメリットがあります。

事業譲渡のメリット

  • 介護事業だけを選んだり、介護事業のなかでも一部だけを対象にできる
  • 譲渡元に負債があっても、交渉次第で引き継がないこともできる
  • 買収金額を抑えることができる
  • 譲渡元に介護保険法の欠格事由があっても、引き継がなくてよい
  • 資産、取引などを個別に評価する必要があり、手続きも煩雑
  • 許認可などを引き継げない
  • 土地建物の賃貸契約・出入り業者との取引契約などが継承できるとは限らない
  • そのままスタッフが残る場合、個人ごとに雇用契約継続の同意が必要
  • 手続きが簡単
  • 許認可を引き継ぐことができる
  • 土地建物の賃貸契約・出入り業者との取引契約は通常はそのまま継続できる
  • 介護関係以外の事業も引き継ぐ必要がある
  • 譲渡元の負債も自動的に譲渡先が受け継ぐことになる
  • 譲渡元に介護保険法の欠格事由がある場合、その状況も引き継ぐことになる

事業譲渡のデメリット

株式譲渡のメリット

株式譲渡のデメリット

スタッフの退職と介護保険法の欠格事由に注意

以上の話はどんな業種にも共通します。介護事業で大きな問題になりがちなのは、スタッフの退職と介護保険法の欠格事由です。

介護事業のスタッフは、離職率が高いうえに採用にも苦労するのはもはやよく知られているところです。できれば、譲渡をきっかけに退職するスタッフが出ないようにしたいところです。雇用契約を結び直す必要のない株式譲渡の方がすんなりとスタートできるでしょう。

介護保険法違反などを起こし、指定取り消しなどの処分を受けている場合、株式譲渡であれば新しい事業主にも適用され、営業再開にはその期間が明けるのを待つ必要があります。これについては事業譲渡の方が有利です。処分はまっさらになり、手続きさえ済めばすぐに再開できます。

新規開業と比較した場合の事業譲渡・株式譲渡のメリットとデメリット

介護事業への新規参入の場合、新規立ち上げか事業譲渡・株式譲渡かは、一度は検討する課題でしょう。介護事業所の数を増やしたり、今までやっていなかった形態の介護事業にまで手を広げる場合も、拡大する部分については同じ選択肢があります。

メリット

新規に介護事業を始める場合、市場調査をし、事業計画を立てるでしょう。スタッフを確保し、利用者も集めなければいけません。不確定要素が多く、もしかしたら開業にさえたどり着けないかもしれません。一方、事業譲渡や株式譲渡ならば、すでにあるものを譲り受けるだけです。

先に自社の側でも介護事業所を運営している場合は、自社内では育たなかったタイプのスタッフや、持っていなかったノウハウが手に入る可能性も高いです。うまく波及すれば、以前から運営している介護事業所まで活性化するかもしれません。

デメリット

逆に新しいスタッフが悪い方に影響する場合もあります。以前からいるスタッフに溶け込めないばかりか、新旧のスタッフで派閥ができて社内がギスギスする例まであります。

また、いくら入念に事前に調査をしても、なかなか完ぺきにはいきません。譲渡契約が終わった後で、気がついていなかった問題が出てくることがあります。比較的多いのが簿外債務です。会計帳簿に載っていない支払い義務のことをいいます。株式譲渡ならば、気がついている・いないにかかわらず自動的に引き継ぐことになります。

新規開業ではこれらのトラブルはありません。

相手が介護事業を手放す理由はさまざま

相手がなぜ手放そうとしているかは真っ先に気になるところでしょう。いろいろなパターンがあります。

経営の効率化

「会社や介護事業部門が赤字」「将来性がないと判断した」は最もわかりやすい理由でしょう。しかし、そうとは限りません。

介護事業自体には問題がなくても、本業との関連が薄く、全体としてみた場合に経営効率が悪いことがあります。これで撤退を決める場合もあります。

後継者難

中小企業の後継者難は、近年さらに厳しくなっています。

社長から退くと同時に株式譲渡し、会社とのつながりを解消するオーナー経営者(大株主でもある経営者)が増えています。

人材不足

介護保険法に定められた条件が満たせなくなると、指定を取り消されます。スタッフの人数も細かく決められています。欠員が埋まらなければ撤退せざるをえません。

廃業では、利用者も残ったスタッフも放り出されることになります。事業譲渡・株式譲渡ならば事業は続き、譲渡する側にはお金が入ります。

不祥事

重大な不祥事を起こしても指定が取り消され、スタッフが確保できないのと同じ状況になります。

これに関する最大規模のものが、2007年のコムスン事件です。コムスンは当時日本最大の介護事業者で、処分の理由は介護報酬の不正請求でした。運営していた訪問介護事業所・介護付き有料老人ホームなどは切り売り状態になり、ニチイ学館・徳洲会などに事業譲渡されました。

事業譲渡・株式譲渡にはM&A仲介会社が必要

会社や事業を手放す介護事業者を探そうにも、コムスン事件のような大騒動にでもならない限り、まずは見つからないでしょう。というのも、手放すという話が漏れると、関係者が動揺するからです。スタッフが転職先を探し始めたり、利用者がよそに移ったりする恐れがでてきます。

秘密を厳守しながら譲渡元と譲渡先をマッチングするのが、M&A仲介会社です。介護関連専門のところもあれば、介護コンサルティング会社・介護フランチャイズ会社が兼業している場合もあります。

ここまでで見たように、事業譲渡・株式譲渡されようとしている案件には詳細なチェックが欠かせません。譲渡の金額やほかの条件も譲渡元・譲渡先の両方が納得するように調整する必要があります。専門家であるM&A仲介会社の助けを借り、間に入ってもらわないとスムーズに進まないでしょう。

事業譲渡・株式譲渡成功のカギはM&A仲介会社選び

M&A仲介会社は実力も料金もさまざまです。

まずチェックする点は、「訪問介護や介護付き老人ホームなどどういった案件に力を入れているか。その実績があるか」です。料金は着手金プラス成功報酬になっていることが多いので、なかには無理やりに話をまとめようとするところもあります。そういったところは避けなければいけません。

さらには、いくつもの候補のなかから選ぶ、評判もしっかりチェックするなどして、慎重にM&A仲介会社を選びたいものです。